二丁目に転がる覚え書

語感の良さと ちょっとの思想

愚痴

リンドバーグ”ときて、“愚痴”



「はぁ…」

まずため息から始まる。ドラムのスティックで4回、カウント。


「ねぇ、ちょっと聞いてよ」


と、イントロが流れ出し、


「今日、職場でね、アイツがさぁ〜」


状況説明のようなAメロが進行していき、


「ほんっっと、もう、アイツ頭おかしいよ!!」


魂を込め、感情をのせたキャッチーなサビである。


今日も、全世界のお茶の間や居酒屋、喫煙所などで、膿を宿した言霊達が“愚痴”と化し、ヒットチャートの流行歌のように流れ、吐き捨てられている。

愚痴の中身というのは、大体、“人間関係”に決まっている。

「アイツが気にくわない」
「アイツが思い通りに動かない」
「アイツが陰で自分の悪口を言っている」

愚痴というのは皆、“〜アイツに対して〜”というサブタイトルがつく歌なのだ。

アイツの振る舞いに対して“感動”しているし、そもそも、アイツに対して興味・関心が高いんである。


自分だけの、限りある人生の大切な時間を、わざわざ“大嫌いなアイツのこと”を考えるのに費やしているのである。


これはもう、恋だ。


「ハッ、私ったら、また大嫌いなアイツのこと考えちゃって…」


まるで90年代の少女漫画のようだ。


愚痴を受け止め、聴く方も、それ相応の体力がいる。

BGMが耳に入ってくるような感覚で愚痴をきいてはいけない。

“hear(聞く)”ではなく、“listen(聴く)”でなければいけないのだ。

愚痴というのは、本人のみが魂を揺さぶられている駄曲・凡曲だ。ハッキリ言ってつまらない。

愚痴を聴く人は、それこそ、listenerにならなくてはいけない。

TVドラマではよく、奥さんが家庭の中で夫にまくし立てるように愚痴を連射する光景が風物詩となっているが、これはドラマの中だけではないようだ。

往往にして、男性は女性の愚痴や悩みに対して、すぐ“解決法”を提示しようとする。


「今度からこうしてみたら?」


と、アドバイスしたがる。


大体、女性はこういう、


「もういい」


そうして、部屋に戻っていってしまう。


男はふと考える。


「何が良くなかったのか。自分は適切なアドバイスをしようとしただけじゃないか」


そもそも男のスタンスが間違っているのである。


“お前の悩みをこの俺様が解決してあげようぞ”


こんなスタンスで来られたら、誰だって逃げ出したくなる。

アドバイスというのは、求められた時にだけ答えればいいのだ。


愚痴を聴く人の覚えておきたい大事な考え方は、



愚痴は、解決しなくていい。



これである。



解決しなくていいんである。

 
ただただ聴く。聴くだけである。


愚痴が歌だとしたら、listenerが、目の前で歌っているシンガーに

「今度から、もうちょっと大きい声で歌ったら?」

なんて、アドバイスしますか?


listenerはただただ聴くだけでいいのだ。


現代社会はストレスだらけだ。いや、多分、昔も大昔もストレスはあっただろう。

生きてるだけでストレスが溜まる。

愚痴の一つも言わんとやっていけん。

そういえば、“ストレスに強い人とは”という内容の話をどっかの研修で聴いたことがあるので、最後にご紹介しよう。

どんなストレスでも、上手くやっていける、乗り越えていける方法が一つある。


それは、


“自分の話を聴いて理解してくれる人が身近にいること”


だそうだ。


簡単なようで難しい。難しいようで簡単。


ストレスに強くなりたければ、自分だけのlistenerを探してください、ということになる。

listenerの獲得も大変だ。

自分の愚痴も、もっとちゃんと聴いてくれるように磨かねばなるまい。